大判例

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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)5658号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕本件土地につき原告の亡父安藤新三部から原告に対する昭和一四年七月三一日付売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記がされていたが、昭和二五年一二月中原告の長兄誠三郎が、「電力会社との間に高圧線による補償に関する契約を更改するにつき原告の印鑑が必要である」といつて原告の印鑑をあずかり、これを冒用して右仮登記を抹消してしまい、同月二五日新三郎から被告五十嵐利男に本件土地が売渡されて所有権移転登記を経てしまつた。原告は、右新三郎との間の売買予約については、売買代金二〇〇円と定められていたのに、昭和一八年八月中に新三郎に二〇〇円を支払つて予約完結の意思表示をし、本件土地所有権を取得したのであつたが、新三部は原告と兄姉分との間の問題もあるからと本登記手続を延引していたものであると主張し、新三郎が昭和三二年二月一六日死亡したのに、その相続人たる被告安藤慶治外六名に対し、右抹消された仮登記の回復登記および売買予約完結による所有権移転の本登記手続を求め、被告五十嵐利男に対してその承諾を求めた。

判決は、原告と亡父新三郎との間の本件土地売買の予約が、売買一方の予約であつたとは認められず、また原告が二〇〇円を支払つて新三郎に予約完結権を行使し、新三郎がこれに応じて本件土地所有権を原告に移転したことについては確証がないとして、原告の本登記手続請求を排斥したうえで、被告五十嵐に対する承諾請求および被告安藤慶治外六名に対する回復登記の請求について次のように判示した。曰く、

「ところで、仮登記が不法に抹消された後、善意無過失で目的不動産につき所有権の移転を受けその登記を経た者は、右抹消登記の回復登記により実質上不測の損害を受けないと認められるか、またはその損害が仮登記権利者の損害と比べて顧慮するに値しないと認められる特段の場合のほかは、回復登記手続を承諾する義務がないと解するのが相当であるところ(昭和三〇年六月二八日最高裁判所第三小法廷判決参照)、……によれば被告五十嵐利男は昭和二五年一二月二五日父親である五十嵐岩松を代理人として安藤新三郎から本件土地を買い受けたものであるところ、被告利男本人は岩松に一任しており、岩松は本件仮登記が抹消されたので売買契約を締結したが抹消が不法であることについては善意であつたことが認められ、岩松と新三郎とは別懇の間柄で新三郎を信じており、新三郎、誠三郎、原告ら父子の間に本件土地をめぐつて紛議があることなどには思い及ばず、家庭の事情に立入つて調査をしなかつたからとて過失があるとはいえない。右認定を覆えすに足る証拠はないとともに、前説示の特段の事情の認められる証拠もないので、被告五十嵐利男は、本件仮登記の抹消登記の回復登記手続を承諾する義務はないものといわねばならない。そうであつてみれば、原告は、被告五十嵐利男に対し、右回復登記手続についても本登記手続についても承諾を求めることができず、亡安藤新三郎、従つてまたその共同相続人たる被告安藤慶治ら七名の被告らに対しては二に説示のとおり、本登記手続を求めることができないのであるから、残るところ原告の被告安藤慶治ら七名に対する回復登記の請求は、以上の諸請求の併合された本訴においては、請求の利益を欠くものである。しかも、抹消登記は特に回復登記をまたずともそれ自体無効であるから、第三者に対する関係を離れては回復登記を求める請求の利益はない。」

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